岡山にこだわった学習動画コンテンツサイト「おかやま まなびとサーチ」とは?笠岡小での活用事例も紹介
岡山県には、岡山県教育庁による岡山県内の小・中学生のための岡山県にとことんこだわった学習動画コンテンツサイト「おかやま まなびとサーチ」(以下、「まなびとサーチ」と記載)があります。IDもログインも不要、どこでも誰でも何度でも見られるこのサイトには400を超えるコンテンツ(2024年12月現在)があり、これからも新しいコンテンツが追加されていく予定です。
世の中にはすでに数多くの学習動画コンテンツがあるにもかかわらず、なぜ、岡山県独自のコンテンツを作るのか?そして、それらのコンテンツは学校現場でどのように活用され、子どもたちにどのように受け止められているのか?
笠岡市立笠岡小学校にお邪魔して、話を聞いてきました。
■「まなびとサーチ」とは?
「たとえば、理科の教科書に登場する地層の写真は、たいてい他県の地層です。子どもたちにとって他県の地層は、いってみれば他人事。しかし、身近な岡山県の地層なら自分事になります。」
そう説明してくれたのは、岡山県教育庁生涯学習課 社会教育主事の石川雄大(いしかわ ゆうた)さんです。
「まなびとサーチを開設したのは令和3年(2021年)10月22日です。
その前年、新型コロナウイルス感染症の流行で学校は休校になり、博物館や工場などへ見学に行くことも、学校に外部の講師を呼ぶこともできなくなりました。
そのような状況下であっても子どもたちの学びを止めてはいけない、せめて動画を使った学びを提供しよう、と簡易なサイトを作りました。
やがて、本格的なサイトにしようと、まなびとサーチの開設に至ったのです。
今では、博物館や美術館などに関する動画だけではなく、教育資源を持っている企業や県内で働く方の仕事紹介など、400を超えるコンテンツがあります。
私たちがとにかくこだわっているのは、岡山県に関係するコンテンツにすることです。インターネット上には数多くの学習動画コンテンツがありますが、岡山県の動画があるかというと、少ないんですね。
子どもたちが学ぶとき、教科書の内容と自分のくらしがどのようにつながっているのかを実感できてこそ、学びが深まります。だからこそ、身近な岡山県のコンテンツが必要なのです。」
石川さんが知る限り、県レベルでここまでの動画コンテンツを作っている取組はないとのこと。
まなびとサーチにはもうひとつ大きな特徴があります。1本の動画の長さが短いのです。
「動画で学習内容をすべて教えようとすると15分から30分になってしまうのですが、小学校の授業時間は45分しかありません。短い動画を学びのきっかけにしてほしいので、まなびとサーチは2分から5分くらいの長さにしています。授業の主役は動画ではなく、あくまでも先生たちの授業ですから。
たとえば授業のはじめに動画を見せて、そこで疑問に思ったことを授業の中で深めていくとか、あるいは授業の中盤の展開部分で動画を見て調べるとか、動画が学びのきっかけになるのです。」
まなびとサーチには、美術館や博物館などの他に、企業の施設も登場しています。
「動画の中の施設は基本的にすべて見学可能です。動画から興味を持ってもっと見たい、知りたいと思ったときには、見学に行って実物を見られるようにしています。
身近な岡山県内の施設や企業だからこそ、行きたいと思えば行けます。子どもたちには岡山ってすごいな、岡山にはいいところがたくさんあるな、と思ってほしい。
学びが広がって、最終的には岡山に誇りを持ってくれたらうれしいですね。」
岡山県内の27市町村すべてに関する動画を作っているのも、身近なコンテンツを提供することにこだわっているからです。
「もちろん、市町村によって本数に多い少ないはあるのですが、自分の住むところや近くの市町村の動画には興味がわきますよね。子どもたちが1人1台持っているタブレット端末のデスクトップに、まなびとサーチの入口を貼り付けていますので、見たいときにはすぐ見られるようになっています。」
まなびとサーチには、現在3つのタイプの動画があります。
(1)学習内容に関係する動画
小中学校の理科や社会など教科の単元と関係がある、岡山県内の教育資源
例 川の水による災害を防ぐダムの役割(小5理科)
燃やした後のゴミのゆくえ~海にある埋め立て地~(小4社会)
(2)VR動画
360°見渡せる動画コンテンツ。工場見学系や自然科学系など、見学に行こうと思ってもなかなか行けないところを紹介
例 鉄ができるまで~日本の鉄鋼業を支える岡山~(小5社会)
川の様子を見てみよう(小5理科)
(3)仕事紹介
県内にゆかりがある人の仕事の様子を紹介
例 パイロットってどんな仕事?岡山県出身の人に聞いてみた
消防士ってどんな仕事?~岡山県出身の人に聞いてみた~
「たとえば、吉井川の上流・中流・下流で自分でタブレットを操作して360°見ると、さまざまな方向から川幅や流れ、石の大きさなどを確認できます。実際に子どもたちが川へ行って上流から下流まで観察するのは大変ですが、動画なら短時間で体験できるんです。」
まなびとサーチの短い動画の中には、岡山県の大人たちの本気がぎゅっと詰まっているのです。
■笠岡小学校の授業での活用事例
笠岡市立笠岡小学校は、2024年で創立151年となる歴史ある学校です。
かつての戸川氏陣屋門、小田県庁の門が、現在は笠岡小学校の校門として子どもたちを見守っています。
笠岡小学校の亀津貴広(かめつ たかひろ)先生に、授業でまなびとサーチをどのように活用しているのかを聞きました。
「まなびとサーチの動画は短いのですが、さらにその中の一部分だけ見せる、という使い方をしています。たとえば6年生の理科で『大地のつくり』を学習する際には、導入で縄文時代と明治時代の倉敷の地形の比較を1分ぐらい見せました。
縄文時代と明治時代の岡山の海岸線はずいぶん違うよね、なんでだろう、と問いかけると、子どもたちは一生懸命考えます。
水の流れが変わったのかな?人が耕したんじゃない?など、子どもたちがこれまでの学習で学んだ知識を引き出せました。」
その後、教科書に沿って授業を進めてから、終盤でまた別の動画を使います。
「岡山県真庭市の地層断面の動画は、タブレットで画面を操作して360°見渡せるようになっています。この地層はどこまで続いているかな、と子どもたちに聞くと、360°ぐるっと見渡して、ずっと続いていることに気づくんです。
まなびとサーチを使う以前の授業では、地層の一部分については理解できても、地層の広がりまでを実感を伴って理解するのはなかなか難しかったんです。けれども、VR動画を見た子どもたちは『地層はずっと続いているんだ』と納得します。」
動画を使わずに教科書だけで授業をしていたときよりも、子どもたちは地層を「自分事」として捉えられているようだ、と亀津先生は話してくれました。
「授業の後、子どもたちに地層の絵を描いてもらったんです。そうすると、自分の家や学校の下の地面に、地層を描いているんですね。自分の足元に地層を感じている。身近な岡山の地層の動画を見ることで、学びが自分事になっているんだと思いました。」
授業後のテストでは、極端に低い点を取る子どもはいなかったとのこと。自分事になっているから理解が進み、理解が進むから学力に結びついているのでしょう。
社会でこうもり塚古墳のVR動画を見せたときには、子どもたちは古墳に強く興味を持ちました。授業後に子どもたちが書いた感想がこちらです。
周りが見られるのが便利。とてもいい
360°いろんな方向が見られるのでわかりやすい
見たいところが自由に見える
少し画面に酔ってしまったけれど、説明も詳しくてわかりやすかった
実際にこうもり塚古墳に行ってみたい
古墳の石がどのようになっているのか、どのような大きさなのかがわかりやすかった
あまり行けないところまで行けるまなびとサーチはとってもいい。家族で見たい
(一部抜粋)
「この動画をきっかけに古墳に興味を持った子どもたちは、『先生、せっかく大阪に行くんなら行きたい』と、修学旅行の行き先に大仙陵古墳(別名:仁徳天皇陵)を組み込みました。」
笠岡小学校の修学旅行で大仙陵古墳を訪れたのは初めてのこと。子どもたちは大喜びだったそうです。
「とはいえ、大仙陵古墳は非常に大きいので、古墳全体を見るのは難しかったですね。結果的には古墳の大きさを実感でき、いい体験になったと思います。」
■これからの課題や展望
まなびとサーチは、2023年と2024年の2年連続で、アクティブユーザー10万人超を達成しました。岡山県内の小中学生が約15万人ですから、約3分の2の子どもたちが利用していることになります。
「多くの子どもたちに使ってもらっているし、数多くの学校現場で使われていますが、まだ全員が使う状況にはなってはいません。
教育時報では、どの単元のどの授業でまなびとサーチをどう使うか、という連載をしていますので、ぜひ活用してほしいと思います。
また、中学校では職業体験の事前学習として、職業紹介動画を見てどのような仕事があるのかを調べている学校もあると聞いています。」(石川さん)
まなびとサーチを使うことで、子どもたちの理解度は上がっているようですが、実際にどのような変化が表れているのでしょうか。
「子どもたちの非認知能力の向上には、影響が出てきているのではないかと感じています。」(石川さん)
非認知能力とは、物事に対する考え方や取り組む姿勢など、日常生活や社会活動に大きな影響を及ぼす能力のことです。
たしかに、修学旅行の行き先に古墳を組み入れるという子どもたちの行動を見ても、テストの成績だけでは測れない大きな変化が出てきているように感じます。
まなびとサーチが子どもたちの学びのきっかけとなり、その後の興味の幅を広げているのではないでしょうか。
「子どもたちだけでなく、まなびとサーチに関わっている私にも、新しい発見が多いですね。たとえば、なぎビカリアミュージアムに展示されているビカリアという化石があります。これは中学校の理科の教科書にも載っている、かなり特徴的な示準化石です。ミュージアムでは化石発掘体験もできるんです。
そういうものが岡山にある、岡山すごい、と思いました。
それがあの動画の数だけあるわけです。子どもたちが見て、岡山すごい、岡山っていいところだ、そう思ってくれたら担当者としてはうれしいです。
保護者への周知もこれからの課題だと思っています。家族で動画を見て、ここおもしろそう、と博物館や美術館などに足を運んでもらえたらうれしいですね。」(石川さん)
「これまでは授業で動画を使おうと思ったら、自分で初めから探す必要がありました。しかし、まなびとサーチはこの単元のこの授業ならここ、とオールインワンで入っているので、授業準備が楽になりました。その分、いい授業をすることにエネルギーを使えます。」(亀津先生)
現場の先生の負担を大きく減らして、子どもたちの興味を引きつける魅力的な授業を実現する、岡山県の誇る教育コンテンツが生まれています。
今後もまなびとサーチには、魅力的なコンテンツが追加される予定です。2024年度末に向けて制作が進んでいる動画の中には、次のようなものがあります。
レーシングドライバーの仕事紹介
柵原鉱山の坑道跡を利用した黄ニラ栽培
牛窓漁港の定置網漁 など
大人が見てもワクワクするコンテンツが満載のまなびとサーチ。
今後もさらなる発展にご期待ください!