【私の工夫】わたしたちがめざすもの~学校の教育目標を具現化するために~

新見市立矢神小学校 教頭 白根 雅弘(所属・職名は執筆時)


1 はじめに

 この実践は、私が前年度まで指導教諭として勤務した新見市立刑部小学校の取組である。
 学校の教育目標は、「豊かな心と自ら学び自ら考える力をもち、たくましく生きる子どもの育成」である。これを具現化するため、校内研究の場を「教育目標にある児童の姿が、授業をはじめ、日常の中で見られるようにするために、教職員が考えや思いを語り合い、共有する場」と、位置づけた。

刑部小学校がめざすもの(図)

 研究主題は「豊かな心と、自ら考える力をもった児童の育成~友達と伝え合い、学び合うことができる授業をめざして~」とし、児童が友達と対話し協力し合いながら協働的に学習に取り組むことができるように授業改善を図ってきた。
 教職員が、教育目標や研究主題を具現化するために、どんな実践をし、どのような語り合いをしたのかを紹介したい。

2 「問い返し」を手がかりに

 協働的な授業を志向するにあたって、先生方から、「子ども同士の発言をつなぐって難しい」「子どもの考えを深めたり、広げたりするために、どんな工夫ができるのかな」といった不安や疑問が出されるようになった。そこで、具体的な場面や言葉などがイメージできるように、『岡山型学習指導のスタンダード増補版』にある「問い返しの例」を用いた授業を提案した。また、授業で使えるように、問い返しの例と交流場面のポイントをまとめたものを配付した。

問い返しの例

 これらを意識した授業づくりに取り組むことで、授業中、「Aさんが話したことを、お隣の友達ともう一度話してごらん」「Bさんの言いたかったことは、どういうことですか」「Cさんの考え方を分かりやすくなるように、グループで相談しなさい」「Dさんの考えは、何に着目した考えですか」など、児童同士を結びつけようとする問い返しが先生方から発せられるようになった。同時に、授業公開後の協議では、児童同士が考えを広げたり深めたりするための問い返しや言葉かけに焦点を当てた語り合いと協議が深まるようになった。

3 「めざす授業」を手がかりに

 校長から、「先生方が考えているめざす授業って、どんな授業だろう」と、先生方に問いかけがあった。
 「子どもに、身につけてほしいことが身についた授業」「子どもたち同士が関わり合って解決したり、まとめたりする授業」「自分の見方や考え方が深まったり広がったりする授業」といったイメージが出された。このイメージをもとにして語り合い、「児童が、友達と関わり合いながら、新たな気づきや発見ができる授業」と、私たちが目指している授業を私たちの言葉で明らかにすることができた。

研究授業の様子1
研究授業の様子2

4 自分たちの実践を手がかりに

 教育課程の反省を行う際、私たちが1年間大切にしてきたことを語り合う機会を設けた。「認めること、褒めることを基本として子どもたちに接した」「1日の流れに見通しをもち、授業の始めと終わりの時刻を守るようにした」「登校してから1校時目までが落ち着くように、児童の活動を工夫した」「子どもにも先生にも使いやすい環境整備を心がけた」など、具体的な場面を通して、自分たちがしてきたことを振り返った。この語り合いは、職種を超えて、教職員が「何のために」「誰のために」「何を思って」など、教職員一人一人の目的や意図を全員で共有することができた。

5 私たちがめざす学校とは

 校長から示された次年度の学校経営計画とアクションプランに、教職員が1年間実践してきたことと語り合ってきたことを位置づけ、「刑部小学校がめざすもの(図)」としてまとめ、提案した。「一つ一つの取り組みにどんな目的と意図があるのか、先生方と共通理解しやすい」「自分たちは何のために、何をしようとしているかが分かる」「この1年間の実践が、次年度にどのように活かされているのかが見える」など、教職員はこのまとめを自分たちの目的や意図、取り組みの関係を表したものとして理解し、自分たちの実践のよりどころとすることにした。

6 おわりに

 校内研究を進めるにあたり、「何を」「いつまでに」「どのように」「どんなやり方で」といった指示や周知をできる限りしないようにした。与えられた目標や取組を理解し、こなすことに専念してしまい、教職員の学びにならないと考えたためである。教育目標をよりどころにして「何のために」「何をめざして」と教職員が互いに実践の意味や意図を探求することで、自らの学びとし、その学びを児童の成長へとつなげることを目指した。明確な指示や周知がない分、手間や時間がかかり、教職員間に多少の葛藤を生んだかもしれない。しかし、葛藤や手間を自らの学びや成長の機会と捉え、自分たちの実践を自分たちが目指す学校へと結びつけることができた。
 校内研究の位置づけや進め方など改善するべきことはたくさんある。また、自分たちの実践の意味や価値を問い返すことを継続できる学校の風土を醸成していく必要もある。ただ、教職員は、これらの課題も語り合いの材料として、自分たちがめざす学校を創り上げていくだろう。児童も教職員も協働的に学ぶ刑部小学校の取り組みを参考にして、現任校の充実に努めていきたい。


『教育時報』令和4年10月号「私の工夫」で紹介された実践です

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