【私の工夫】道徳の公開授業を経験して得られたもの

岡山市立富山中学校 教諭 佐々木 皓平(所属・職名は執筆時)


1 はじめに

 富山中学校では、「考え、議論する道徳」を目標に道徳教育の充実に取り組んでいる。昨年度、私は教員生活7年目の数学科教諭で、道徳科の公開授業を初めて引き受けただけでなく、どちらかと言えば道徳科の授業に対して苦手意識をもっていた。そんな私がなんとか道徳科の公開授業本番を終えることができたのは、道徳主任を中心として、学校全体に道徳教育の充実を目指す機運が高まり、多くの意見によってこの授業が作り上げられたことによるものだと考えている。この公開授業に至る過程や、継続的に取り組んでいるものの中からいくつか紹介したい。

2 実践

(1)指導案検討の充実と同じ教材による他学年での授業実施
 第2学年で実施する「傘の下」という教材を使って事前授業として第1学年と第3学年でも授業を行った。それぞれの学年会で指導要領解説の内容項目「遵法精神・公徳心」の内容を読み込み、各学年の実態に合わせて目指す生徒像や、この教材を活用して生徒たちに得させたい力を共有し、めあてだけでなく具体的な発言まで掘り下げて考えるという活動を指導案検討の中で充実させた。その後、発問や授業の流れを検討することで、場面把握の工夫や話し合いの活動をする意味を、常に本時のめあてや生徒に得させたい力を軸に検討することができるようになった。授業の反省では、活発な議論は多く見られたが、思考の深まりに課題が見られたという意見が出された。授業の中の沈黙も、決まりを守ろうとする動機を自分と照らして考える意義のある時間だったという意見が出るなど、様々な視点から授業改善ができるようになった。また、公開授業前日の遅い時間まで、よりよい授業をコーディネートするために様々な意見が寄せられ、公開授業本番でも、指導助言の先生から「授業者が生徒に得させたい力を具体化できていることによって、立ち止まって考えさせる場面やまとめで焦点化する内容が効果的だった」というお言葉をいただいた。

体育館での授業風景
他学年の教職員と授業検討
授業展開

(2)自己を振り返る活動の充実
 この公開授業を行う中で特に大きな学びの一つが、自分を振り返る活動の大切さである。ご指導いただく中で、「新たな学びや思考の深まりがあれば、自分に当てはめて考え、今後の生活につなげたいと思うのが自然な流れではないか」という言葉が印象的だった。道徳科の目標にもある、自己を見つめる活動を習慣化することで深い学びにつなげることができたように思う。指導案検討と反省を繰り返す中で、「生徒が自ら自己を振り返りたいと思うような学びを得ることができ、その学びを価値づけるまとめができるような活動にするためには、中心発問等をどのように工夫するか」という逆算の考え方も有効であると感じた。また自己を振り返る活動の充実度が、自らの授業反省の指標の一つになると感じた。

(3)話し合い活動の充実
 私が意識していることは、話し合うことそのものが目的になってしまわないようにすることである。様々な学習における話し合いの基本的な流れは、個で考えて意見を持ち、他者と議論した後、個に立ち返って自分なりの考えを整理する、という過程で考えが深まり、有意義な活動になると考えている。しかし、一読しただけで意見を持つことができる場面での個で考える時間や、同じような意見しか出ない内容での他者との議論は不要である。逆に様々な意見を持つことはできても発表につながりにくい場面では、ペアトーク等の発表の準備をする時間を加えることが必要である。また、話し合い活動の中で沈黙が続く場面があっても、自分自身と照らして深く考え込んでいるのであれば、とても有意義な時間だと考えている。本時のねらいや目指す生徒像に基づいて、話し合う内容や形式、時間等を精選したり工夫したりすることで、授業者自身が話し合うことそのものではなく、発言の質や生徒の思考の流れを意識することができるようになっている。

話し合い活動と振り返り

3 おわりに

 今回の公開授業を通して、改めて本時のめあてや生徒に得させたい力を明確にすることの大切さや、複数で検討することでの議論の深まりを感じることができた。次年度の公開授業でも学習指導要領解説の内容項目の内容について学年団で協議することで、道徳科の時間だけでなく長期的な目標を共有することができ、道徳科の時間だけに限らず、他教科での授業改善や生徒指導にもつなげることができた。こうした貴重な経験を糧とし、今後も道徳教育の充実を図っていきたい。


『教育時報』令和5年2月号「私の工夫」で紹介された実践です

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