【私の工夫】通常の学級における特別支援教育の観点を取り入れた授業づくり~「令和の日本型学校教育」の実現をめざして~

高梁市立津川小学校 指導教諭 五百藏 朋江(所属・職名は執筆時)


1 はじめに

 令和3年1月の中央教育審議会答申では、「令和の日本型学校教育」の姿を「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学び」としている。
 私は、「個別最適な学び」とは、児童の特性、学習進度、興味や関心に応じて指導や支援をすることで、児童が自らの学習状況を把握して自分に合った学びを行うことと考える。また、「特別支援教育の観点を取り入れた授業づくり」とは、困り感のある児童へ適切な指導や支援をすることで、どの児童も「分かる」「できる」授業を行うことと考える。個別最適な学びを実現する上で、通常の学級において特別支援教育の観点を取り入れた授業を行うことは、有効な手立てとなるのではないだろうか。

2 実践の内容

(1)実態把握と指導や支援の計画
 ・アセスメントシートや観察などによる個人や学級集団の実態把握を行う。
 ・授業で予想される困難さを想定し、支援方法を考える。

(2) 授業づくり
ア 教材研究
ねらいの焦点化(身に付けさせたい力は何か・どのような児童の姿が見られればよいのか)
イ 学習活動を組み立てる(単元構成・本時案)
①興味・関心・意欲を引き出す導入(生活や経験との関連)→②見通しをもたせる手立て→③自力解決の時間の設定→④考えを交流する場の設定→⑤支援が必要な児童への具体的な手立て→⑥学習活動の精選
ウ 板書や発問の計画、教材・教具の準備(ICT機器・ワークシート・提示物等)
※(図1)のチェックシートの項目を意識して授業づくりを行っている。

(図1)特別支援教育の観点を取り入れた授業づくり チェックシート

(3) 実際の授業
第1学年 算数「おなじかずずつ」
【単元の目標】同じ数ずつに分ける場面について,数図ブロックを使って等分したり,まとめて数えたりする活動や,図や式をかいて確かめる活動を通して,乗法や除法の素地を培うとともに,よさや楽しさを感じながら学ぶ態度を養う。
 
①興味・関心・意欲を引き出す導入(生活や経験との関連)
 生活科で育てたアサガオの種や給食の白玉を分けた写真(図2)を見せることで、「同じ数ずつ分ける」ことに着目し、本時の12個のクッキーを3人で分ける場面をイメージすることができた。

(図2)日常の経験から
(図2)日常の経験から

②見通しをもたせる手立て
 既習事項カードから本時の学習に使えそうな方法を選ぶことや(図3)、教師がブロックの操作を演示することで、最適な方法を児童が選択し、解決方法の見通しをもつことができた。

(図3)既習事項カード

③自力解決の時間の設定
 「教師と同じように操作する→自分でやってみる→ペアで見せ合う」という流れや「ブロックを12個用意しましょう」「3人に分けましょう」という指示など、スモールステップで学習を進めていくことで、どの児童も自分で数図ブロックの操作をしながら考えることができた。
 
④考えの交流の場の設定
 じっとしておくことが苦手な児童や考えに自信のない児童のために、ペア(グループ)・全体での話し合いを取り入れ、活動に変化をつけたり、多様な考えを知ることができる時間を確保したりした。また、全体での発表の形式を個人に限定せず、ペア(グループ)の一人が説明し、一人が図を指し示したり操作をしたりすることで、全員が発表に参加できた。(図4)

(図4)ペア発表の様子

⑤支援が必要な児童への具体的な手立て(書くことへの配慮)
 板書と並行して、教材提示装置でノートと同じ枠を映し教師が書きこむことで、同じようにノートへ書き写すことができるようにした。それでも難しい児童には、教師が書きこんだ紙を渡し手元で書き写すことができるようにした。そうすることで、全員の進度を揃えることができた。

3 おわりに

 通常の学級においても、特別支援教育の観点を取り入れた授業づくりを実践することで、児童の学びが「個別最適な学び」へとつながっていくことを実感した。算数に苦手意識をもつ児童が、「算数が前より好きになった」と、笑顔で話す姿が印象に残っている。今後も、どの児童も「分かる」「できる」授業を大切にしながら、個に応じた適切な指導や支援を行うことで、児童一人一人の力を伸ばし、可能性を広げたい。また、子どもたちの10年後、20年後を思い描き、新しい未来に対応できる子どもたちを育てていくとともに、自分自身も学び続け、変化に対応できる教師でありたいと思っている。


『教育時報』令和4年4月号「私の工夫」で紹介された実践です