【私の工夫】授業の中で体験する~興味・関心を高め、自ら学ぶ姿を目指して~
県立倉敷琴浦高等支援学校 教諭 田中 梨紗(所属・職名は執筆時)
1 はじめに
本校は、知的障害を対象とした高等部のみの支援学校であり、卒業後の障害者枠での一般就労を目指したカリキュラムを組んで学習を行っている。
その中の一つに現場授業がある。現場授業では、学校の近くにある企業に出向き働く経験をさせて頂いている。一日の現場授業が終わると、生徒は、疲れた表情と同時に一日頑張って働いたことへの達成感や充実感に満ちた表情をしている。
この生徒の様子から、実際に体験することは、とても有意義な学習の時間になっていることが分かる。
そこで、日々の授業の中にも、実際に使われる物などを使い、疑似体験をする時間を取り入れることで、生徒が興味・関心をもち、自ら考えて、学習に取り組めるように工夫をしている。
2 私の実践
本校では、接客サービスやビジネスマナーについて学ぶ、接遇実習という授業がある。
この接遇実習での実践をいくつか紹介する。
(1)面接に向けて
産業現場等における実習では、実習前に面接が行われる。この面接に向けて練習に取り組んだ。
面接練習では、椅子の座り方や姿勢、質問に対する受け答えの仕方だけでなく、名刺交換の仕方についても学習した。
名刺交換の練習では、生徒一人一人に名刺と名刺入れを用意し、練習に取り組んだ。実際に名刺と名刺入れを持って、交換の練習をすることで、どのタイミングで自分の名刺を名刺入れから出したらよいのか、自分の名刺を渡す時には、もらった名刺をどうしたらよいのか、面接中には名刺をどこに置いておけばよいのかなど、自然と生徒同士で相談しながら、自分たちでより良い方法を考えながら取り組んでいた。
(2)冠婚葬祭のマナー
冠婚葬祭のマナーでは、服装、ご祝儀や不祝儀に包む金額や書き方、参列時のマナーなどについて学習した。
ご祝儀や不祝儀の学習では、自分で用意した経験のある生徒はおらず、どのくらいの金額を包んだらよいのか知らなかった。また、書き方では、実際に筆ペンを使って書く練習をした。薄墨の筆ペンで不祝儀袋を書いた時には、色の薄さに驚く生徒もいた。
その中で、生徒が一番興味をもったのが、実際に焼香や香炉を用意し、焼香の練習に取り組んだ時である。お葬式に参列し、焼香を経験したことがある生徒もいたが、改めて正しいやり方を説明すると、知らないことも多くあった。本物の焼香を用意することで、焼香の香りが漂い、「好きな匂いです。」という生徒もおり、生徒の興味を高めることができた。そのため、焼香の練習には、興味をもって積極的に取り組むことができた。
(3)電話対応
電話対応の学習では、教室の内線電話を用いて、電話をしながらメモを取る練習に取り組んだ。電話対応だけ、メモを取るだけであれば、それほど困ることなく取り組むことができる生徒も、二つのことを同時にするとなると、どうすればよいか戸惑う様子も見られた。何度か繰り返し練習をすることで、どのようにメモを取ると早くメモできるのか、必要な情報は何かを自分で考え、工夫してメモを取りながら、電話対応をしている様子が見られた。
3 取り組みの成果
実際の物を使って、体験することで、興味を示し、どのようにすればうまくいくのか、生徒たちが自ら考え、互いにアドバイスをしたり相談をしたりしながら学習に取り組んでいる姿が多く見られた。
面接練習後に、実際の面接で名刺を受け取った生徒からは、「授業でやっておいて良かった。」という声が聞かれた。また、電話対応の練習では、最初は何度か聞き返してメモを取っていたが、コツをつかむことで、聞き返すことなく、メモをすることができた時には、「ちゃんとメモをすることができた」と喜ぶ姿があった。
4 おわりに
実際に近い物に触れることで、生徒はより興味・関心をもって授業に取り組むことができる。これからも、どうすれば生徒の興味・関心を高め、自ら学習に取り組むことができるかをしっかりと考えて授業づくりを行っていきたい。
『教育時報』令和3年12月号「私の工夫」で紹介された実践です