【私の工夫】楽しみながら習得する学習活動を目指して~美術科の授業と家庭学習のつながり~

真庭市立落合中学校 教諭 平野 直哉(所属・職名は執筆時)


1 はじめに

 「なんで美術を勉強しないといけないの」と生徒が呟いたら、どう答えるか。
 新型コロナウイルスに関連して、教科としてもさまざまな工夫が求められる中、生徒が意欲的に取り組める題材設定について振り返った。

2 題材「オノマトペ ハンティング」全1時間(第1学年)

工夫1 題材との出会い・名前
 漫画の背景に使われるオノマトペの色や形は、伝えたい雰囲気を表すために工夫されている。ただの文字のオノマトペと、漫画のオノマトペを比較して読ませるとよりはっきりした。
 「漫画の表現ってすごい」という気付きが生まれたところで、他にもどんなオノマトペがあるのかを調べさせるため、「さまざまなオノマトペの文字のデザインを集めよう!」という目標を提示した。
 本校では図書室に漫画が所蔵されており、図書室活用の一環として授業でお借りした。また、生徒のワクワク感を高めるために「ハンティング」という言葉を取り入れたが、生徒にうまく意味が伝わっていなかった。生徒の興味を引くことと、活動の目的を明確に表現することのバランスが大切だということに気づかせてくれた題材名でもある。

「オノマトペ・ハンティング」ワークシート

工夫2 ワークシート  ~遊びの余地とねらいへと導く条件設定~
 オノマトペの集め方は、漫画を読み、オノマトペを見つけてワークシートに模写する方式にした。それによって、生徒は比較的抵抗感なく取り組むことができた。
 模写を描く枠はフリースペースにし、寄せ書きのように配置を工夫できるようにした。配置の工夫に余地を与えることで、生徒がオノマトペを集めるワクワク感を感じられるようにした。生徒の作品の傾向を分析すると、密集させて賑やかな面白さを表現しているも
のが多かったが、少数派として、余白が間となって余韻を感じさせるものなどもあった。
 余白が目立ったものの中でも、間を効果的に活用できているものもあれば、適当に少し描いて終わってしまったため結果的に余白が生まれてしまったものもあった。そういった生徒の意欲を喚起するため、条件を工夫した。活動を始める際にあらかじめ評価の観点を生徒と確認するが、量の自己評価の基準、質の自己評価の基準を明確に提示した。それによって、「Sまであと○個か…」などと見通しをもって取り組む生徒が出てきた。質についても、なんとなく模写するのではなく、色や形の細かな違いに注目させるため、基準を工夫した。 
 しかし、めあてや自己評価の基準を教師から一方的に提示しただけでは、生徒が納得できない点に注意が必要である。活動を効果的に行うためには、活動の価値が生徒の価値になっていく手立てが必要であると思われる。

「私の見つけたオノマトペ」生徒作品
「私の見つけたオノマトペ」生徒作品2

工夫3 家庭学習へのつながり
 限られた授業時数を有効に活用するためにも、オノマトペを扱う授業は1時間とし、続きは家庭学習とした。そうすることで、授業では学校にある普段は手に取らない作品を取り上げ、家では自分の持つ漫画で活動に取り組むことができる。

工夫4 活用を中心とした題材へのつながり
 オノマトペの表現を学んだ後、絵文字の鑑賞を行った。文字でも伝わるところにあえて絵文字を用いることで、伝えたい雰囲気をより工夫して表そうとしていることを学ばせたかったからである。
 前回までの学びを踏まえて、「この絵文字からどんなオノマトペが聞こえてきそう…?」と問いかけて鑑賞する。生徒から「ざあざあ!」などの答えを引き出すことで、「作品のどこからそう思った?」などと、美術鑑賞における典型的な発問の流れにうまくつなげていくことができた。
 また、以前絵文字を単体で扱う授業では、文字の一部を絵文字に置き換えることに終始してしまうこともあったが、今回は漫画のオノマトペ表現から始めて絵文字の鑑賞につなげたことにより、オノマトペと絵文字という学んだ材料を効果的に組み合わせることで、自分の伝えたい雰囲気をより工夫して、効果的に表すということを多くの生徒が意識することができた。

3 おわりに

 現在、授業の題材設定では、授業のねらいに生徒が自然と迫ることができるように工夫している。今後は生徒の作品に見られる特徴の分析等を継続するとともに、生徒がオノマトペ作品を漠然と見るのではなく、工夫に注目して見ることができる仕掛けを工夫することで、生徒の学びをさらに深いものにしていきたい。
 「美術科教育を通して子どもの自己実現を図っていく」「来年度に向けて、習得と活用のバランスを意識したカリキュラムマネジメントを進める」等まだまだ課題も多い。それでももう一度原点に立ち戻り、生徒が意欲をもって挑戦しようと思える題材を設定し、そこに自然とねらいに迫る手立てがデザインされているような授業づくりを目指していきたい。


『教育時報』令和2年8月号「私の工夫」で紹介された実践です