【私の工夫】ICT機器を活用した授業~ねらいを明確に、「自立」と「社会参加」に目を向けて~
県立岡山東支援学校小学部 教諭 平井 康智(所属・職名は執筆時)
1 はじめに
パソコンやiPad等、さまざまなICT機器を授業で活用することで、児童の興味を引き付けたり、活動への理解を促したりすることができ、それらを授業に取り入れる有効性を日々感じている。児童にとっても魅力的で、現在多くの授業で取り入れられているICT機器であるが、なぜ使うのか、どのように使うのかを明確にしておく必要がある。本稿では、微力ながら、私が取り組んでいる実践や心掛けていることについて紹介したい。
2 私のこだわりポイント
(1)機器の環境設定
話し言葉だけでは理解が難しく、集中が途切れやすい児童も、テレビ画面やiPadの画面等には注目できることがある。これはICT機器を使用する一つのメリットであるが、使い方を誤ると、注意が逸れたり、それらに依存してしまったりする恐れがある。そのため、ICT機器を使用しないときには、ホワイトボードや布等で隠して視界に入らないようにしたり、コード類を児童の動線の妨げにならないような長さで繋いだりして、注目してほしい物に目が向くような環境設定を心掛けている。
(2)細かいアニメーション
児童の興味を引き付けられるように、パワーポイントを使う際にはアニメーションを工夫している。風を題材にした学習の際、図形を組み合わせてかざぐるまを作り、回転するアニメーションを付けた。児童が画面に向かって「ふーっ!」と息を吹きかけるのに合わせてかざぐるまを回転させることで、どの児童も本時の活動へ興味や期待感をもつことができた。イラストや写真を提示するだけでなく、アニメーションを工夫してリアルな動きを加えることで、児童が活動へのイメージを膨らませたり、意欲を高めたりすることができると感じた。
(3)デジタルとアナログの併用
活動内容の説明とともに、手順やポイントなどをテレビ画面に提示することがある。そのとき、分かりやすく説明しようとすると、画面上に提示することのできる情報は大概一つになる。そのため、三つのポイントを提示しようとすると、三つ目のポイントについて話すときには、一つ目と二つ目のポイントは画面から消えているため、情報が断片的になってしまう。そこで、興味を引き付けることのできるデジタル教材(パワーポイントによる視覚支援)と、消えずに残るアナログ教材(黒板に貼る紙媒体のイラスト)を併用するようにしている。ポイントの説明が終わるたびに、同じ内容を印刷した物を黒板に貼り、情報を残していく。こうすることで、すべて説明をし終えたときには、黒板に三つのポイントすべてが残っており、情報が断片的になることを防ぐことができる。
3 心掛けていること
ICT機器を使用する際、「ねらいを明確にすること」「子どもたちの『自立』と『社会参加』に目に向けること」を心掛けている。それらを使用することが目的ではなく、達成したいねらいへ迫るための手段の一つであると考える。例えば、「文字のなぞり書きができる」ことを目標にしている児童に対し、私は「にほんご-ひらがな」というなぞり書きができるアプリを使った課題を設定した。始めはプリント課題に取り組んでいたが、どのように書けば良いのか児童にとっては分かりづらく、定着が図りにくかった。そこでアプリを導入すると、書き順を目でとらえることができ、徐々になぞり書きができるようになった。その児童にとっては、紙媒体での学習よりもアプリを使った学習の方が、よりねらいへ迫りやすかったと考える。
また、児童がICT機器を生活や学習の中で活用していくためには、それらの機器が特別なものでも、おもちゃでもなく、学習や生活をする上で適切に扱うことができるツールとなる必要がある。その例として、発語のない児童が朝の会を進行できるように、iPadの「DropTalk」を使用した。「挨拶」「天気」等、各項目を示すイラストをタップすると、「天気。〇〇さん、お願いします」等と録音した音声が出力される。これにより、今までコミュニケーションの受け手になりがちだった児童が、自ら他者へ働き掛ける機会を設定することができた。児童自らがさまざまな場面でICT機器を活用しながら集団や授業に参加できることが、将来の「自立」と「社会参加」に繋がる一助となると考える。
4 おわりに
国や県で進められているICT機器活用のための環境整備の中で、それらをなぜ使うのか、どのように使うのかを明確にし、今後も研鑽を積んでいきたい。
『教育時報』令和2年12月号「私の工夫」で紹介された実践です