【私の工夫】新科目「地理総合」設置を踏まえた、主体的、対話的で深い学びを実現する取組

県立岡山大安寺中等教育学校 指導教諭 宗好 慶太郎(所属・職名は執筆時)


1 はじめに

 次期高等学校学習指導要領で新たに設置される「地理総合」では、目標の(2)として「地理に関わる事象の意味や意義、特色や相互の関連を(中略)多角的・多面的に考察したり、地理的な課題の解決に向けて構想したりする力や、考察、構想したことを効果的に説明したり、それらを基に議論したりする力を養う」とされている。これらは、これまで以上にアクティブラーニングに取り組む必要性を示唆している。このことを踏まえ、本稿では、新科目「地理総合」を意識しながら主体的、対話的で深い学びにつながる、「地理A」における二つの実践を紹介したい。

2 実践の具体

(1)人口ピラミッドと景観映像から、身近な地域を概観し、地域が抱える問題を考える

図1(左)、図2(右)

 人口ピラミッドは中学二年で、先進国や発展途上国の人口構成をとらえる内容として学習する。そのことを確認した上で、図1・2を含む四地域の新旧人口ピラミッドを提示し、それらがどの町丁(具体的には南方二丁目、津島桑の木町、津島東四丁目、問屋町)を示すか、という問いを与えた。
 生徒は、実際に南方二丁目という地域を知らない。そこで、新旧地形図や景観映像から人口構成を予想させ、人口ピラミッドと正しく組み合わせる作業に進んだ。ここでは、四人のグループを二人ずつのチームに分け、それぞれ一台のタブレットPCを与えた。一つのチームはGoogleMapで町丁を見つけ、地図の上から地域の特徴を示す建築物を探したり、ストリートビューを活用して景観から地域の状況をとらえたりした。もう一つのチームは「今昔マップ*」を閲覧し、新旧地形図の比較から地域の変容や現況を予想した。二つのチームが得た成果を突き合わせ、グループとして根拠を持って町丁名と人口ピラミッドの組合せを解答していった。「今昔マップ」から国立病院が移転していることや、ストリートビューからこの地域の街路は全般に狭く、低層で築年数がかなり経過した建築物が多いといった情報を共有し、そこから人口ピラミッドの変化と関連付けていった。
 この活動には、一人一台のタブレットPCを必要とせず、互いが自分の考えを出し合ってPCを操作し、その結果を二人で考えることで、多様なものの見方が、比較的短時間に得られる利点がある。なお、岡山市統計(ホームページからデータ入手可能)を活用すれば、町丁別の年齢別人口を容易に入手できるので、工夫次第で色々な授業展開に応用可能である。

グループ活動の様子

(2)マイタイムラインづくりを通して防災を考える
 災害の多い日本にあって、防災教育は極めて重要である。「自然環境と防災」は現行の「地理A」から「地理総合」にも引き継がれ、指導の具体として「生徒の生活圏で見られる自然災害を基に(中略)ハザードマップをはじめとする地理情報を扱う地理的技能を身に付けること」などが求められている。本事例では、マイタイムラインの作成と評価に向けて、災害対応の実際を学ぶとともに、ハザードマップから情報収集をさせたり、情報を比較させたりする過程を重視して指導を行った。
 指導案の作成に当たっては、避難計画やタイムラインがなぜ必要なのか、また、計画は一度考えたら終わりではなく、検証を積み重ねてよりよいものに改善していくことが必要であることを理解させる導入が必要だと考えた。そこで、朝日新聞の連載「てんでんこ」から「ゼロメートル地帯」の特集記事を読んで要点をまとめることで、防災対応の現実を理解させた。また、実際に生徒自身が居住する地域の防災・避難情報を入手する際には、自分や家族のスマートフォンなどを利用することが想定されるので、授業においても実際にスマートフォンを操作させ、国土交通省「ハザードマップポータルサイト」にアクセスして居住地域の危険度を調べさせた上で、マイタイムラインの作成に進んだ。作業はワークシート(図3・東京都「東京マイ・タイムライン」による)で進め、できあがったものをグループでシェアしながら、見落としていることはないか、よりよく行動するにはどうしたらよいかを話し合わせた。
 本校の通学範囲は広いため、各自が互いの居住地域を理解してアドバイスを送ることは難しいが、それでも「高齢の家族はもっと早く避難すべきでは?」「マンションの高層階に住んでいても、平面に置いた自家用車はどうする?」など、クリティカルに議論を進め
る様子が多く見られた。

図3

3 おわりに

 二つの指導事例のうち、(1)については、「獲得した知識や技能を活用して、より深く考えたり、議論したり、発表したりする力」を、(2)については「よりよい社会を築くために、自分ができることは何かを客観的な事実から考え、他者と協力して解決しようとする力」を育むことができた。これらは、新しい評価の観点「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間力等」につながるものと考えている。生徒の自己評価からも、授業を通して多様な学力の獲得が実感できていることが分かった(表)。また、年度末の感想にも、「地理は覚えるものと思っていたが、考えることが絶対必要だと分かった」「資料から様々なことが読み取れ、ものの見方も変わってきたと思う」といったものが多く見られ、それぞれの評価観点において求められる資質・能力の育成につながっていることが分かった。

 今後も教材や授業展開の工夫によりこうした実践をさらに重ねるとともに、校内での授業互見や協議を通じて、新科目「地理総合」に対する理解を深めたい。

*時系列地形図閲覧サイト・今昔マップ on the web


『教育時報』令和2年6月号「私の工夫」で紹介された実践です